冒険はここから始まった――『チムとゆうかんなせんちょうさん』
チムは海辺の町にすんでいるちいさな男の子。
毎日、海に出る人たちや沖の船をながめて暮らし、自分も船乗りになりたくてしかたありません。
でも船乗りになりたいと話すと、お父さんもお母さんも笑って、まだちいさすぎるよと言うのです。
チムにはそれがかなしくてなりませんでした。
ある時、こっそり船に乗り込んだチム。船員に見つかって、船長にきつくしかられてしまいます。お前はただ乗りだから、働かなければいかん。甲板の掃除を命じられ、最初はつらくて泣いていたチムですが、何日も過ぎるうちに船の仕事を覚えよく働くようになります。
そんな暮らしに慣れてきたころ、嵐が襲います。
皆がボートで脱出する中、船長だけは自分の船を見捨てず頑張っていました。
「やあ、ぼうず、こっちへ こい。なくんじゃない。いさましくしろよ。
わしたちは、うみのもくずと きえるんじゃ。
なみだなんかは やくにたたんぞ」
海の男のこの言葉。
なんといういさましさでしょうか。
瀬田貞二の訳もまたいいんですよね。少し控えめな、客観的な語り口といいましょうか。児童文学はこうでなければ。
冒険へのあこがれと厳しさ、楽しさのすべてがつまっているおはなしです。
ペンで描かれた絵も、絵本というより外国文学の挿絵のようで、読み終わると長い冒険物語を読んでいたような気分になります。
子どもの頃に読んで、私も船乗りになりたい、冒険がしたいと思ったものです。(いまも思っています)
『チムとゆうかんなせんちょうさん』
福音館書店 1963年