エトの絵本箱

おすすめ絵本の紹介ブログです

絵本でSF――『一日だけうさぎ』

わたしが すんでいる 町は、とうきょうの となりに あるのに、

森が おおくて しぜんが ゆたかだ。

そして むかしから、この町に すんでいる 人は なぜか

大人も 子どもも みんな 一年に いちど 一日だけ うさぎに なってしまう。

 

「うさぎの日」がいつ来るのかは町の人にもわからないので、各家庭では非常用ラビットフードや、うさぎになったときに着る服を常に用意して備えています。小学生の「わたし」はうさぎになるのが楽しいけれど、お母さんやお父さんはそうでもないみたい。

「今年は真夏じゃなくてよかったわね」と、そんなかんじ。

 

SFと空想物語とのちがいは、思考実験の側面があるかどうか、だと思います。

このおはなしはSFと言えましょう。

奥付によると、2015年度おはなしエンジェル子ども創作コンクールの最優秀作品を絵本化したのが本書で、作者の原知子さんはなんと当時9歳。

 

 

『一日だけうさぎ』

原知子/文 こばようこ/絵 くもん出版 2016年

 

冒険はここから始まった――『チムとゆうかんなせんちょうさん』

チムは海辺の町にすんでいるちいさな男の子。

毎日、海に出る人たちや沖の船をながめて暮らし、自分も船乗りになりたくてしかたありません。

でも船乗りになりたいと話すと、お父さんもお母さんも笑って、まだちいさすぎるよと言うのです。

チムにはそれがかなしくてなりませんでした。

 

ある時、こっそり船に乗り込んだチム。船員に見つかって、船長にきつくしかられてしまいます。お前はただ乗りだから、働かなければいかん。甲板の掃除を命じられ、最初はつらくて泣いていたチムですが、何日も過ぎるうちに船の仕事を覚えよく働くようになります。

そんな暮らしに慣れてきたころ、嵐が襲います。

皆がボートで脱出する中、船長だけは自分の船を見捨てず頑張っていました。

 

「やあ、ぼうず、こっちへ こい。なくんじゃない。いさましくしろよ。

わしたちは、うみのもくずと きえるんじゃ。

なみだなんかは やくにたたんぞ」

 

海の男のこの言葉。

なんといういさましさでしょうか。

瀬田貞二の訳もまたいいんですよね。少し控えめな、客観的な語り口といいましょうか。児童文学はこうでなければ。

冒険へのあこがれと厳しさ、楽しさのすべてがつまっているおはなしです。

ペンで描かれた絵も、絵本というより外国文学の挿絵のようで、読み終わると長い冒険物語を読んでいたような気分になります。

子どもの頃に読んで、私も船乗りになりたい、冒険がしたいと思ったものです。(いまも思っています)

 

 

『チムとゆうかんなせんちょうさん』

エドワード・アーディゾーニ作 瀬田貞二

福音館書店 1963年

 

おふとんのなかのたたかい――『わたしのゆたんぽ』

きたむらさとしの絵が大好きです。

はじめて『ぼくはおこった』を読んだとき、これは当然ニューヨークとかそういうところに住んでいる外国の作家が書いたものに違いないと思いました。

すこしかすれたようなペンで描かれた絵はとってもおしゃれでした。

たぶん小学校の国語の教科書に載っていたのだと思います。

作者のところに「きたむらさとし」と名前が書いてありましたが、この人は翻訳した人だろうと勝手に思っていました。

『わたしのゆたんぽ』の主人公はおかっぱ頭の女の子です。

 

まいばん わたしのあしと ゆたんぽは おふとんのなかでたたかいます。

だけど さいごに わたしが ゆたんぽを おさえこみ、

「さあこうさんしろ!」

というと、ゆたんぽは ポチャロ、ポチャロ といって、こうさんします。

それから ゆっくり ねむります。

 

着物のお母さん、ストーブ、ゆたんぽ、えんじ色の布団。

舞台は昭和初期なのでしょうか。

ブリキのゆたんぽだって、今の子どもは知らないんじゃないかとどきどきしてしまいます。

かくいう私もプラスチック製のゆたんぽは持っていますが、ブリキのを使ったことはありません。

けれどもそんなことはおかまいなしにおはなしは展開していきます。

ある日ゆたんぽは、布団を抜け出て逃げだしてしまいます。

窓を破り、夜の町へと飛んでいくゆたんぽ。

ゆたんぽを抑え込むべく女の子は足をのばしてがんばります。

逃げるゆたんぽ。

おいかける足。

ゆたんぽと足との熾烈なたたかいはどんな決着をむかえるのでしょうか。

ってこんな話を描いていてもどこまでもおしゃれなきたむらさとしの絵に、脱帽なのでした。

 

 

『わたしのゆたんぽ』

 きたむらさとし 偕成社 2012年

 

海の男――『ネコナ・デール船長』

ネコナ・デール、ネコナ・デール、ネコナ・デール……
むむっ このけなみ!

絵本の表紙には、およそ海の男らしくない真っ赤な服に、同じく真っ赤なとんがり帽子をかぶった男が描かれています。
彼がネコナ・デール船長。
ネコナ・デール船長は、ねこをなでることで魚のいる場所も天気の変わり目も読めるのです。
母のようにやさしく、父のようにたくましい船長と乗組員たちの航海を描いたおはなし。
本の見返しに描かれた海原の地図といい、裏表紙の港の様子といい、わくわくする海の冒険を感じられる絵本です。

かっこいい船長といえば、『チムとゆうかんなせんちょうさん』を思い出します。
子どもの頃に読んで、海の男のきびしさと格好良さにわくわくしたものです。
ネコナ・デール船長は現代の船長と言えるかもしれません。


『ネコナ・デール船長』
おくはらゆめ作・絵 イースト・プレス 2010年

はじめに

はじめまして。エトと申します。
ふだんは図書館員として働いています。
けれども今、感染症対策のため勤め先の図書館はサービス縮小していて、ほとんど利用者が立ち入れない状況です。
いまは全国的にこんな図書館が多いのではないかと思います。

人のいない図書館。
本を読めない図書館。
しかたないとわかってはいても、なんてつまらないんでしょうか……!

そんな思いをぶつけるべくブログを開設してみました。

ここでは私が読んで面白かった、おすすめしたい絵本について書いていこうと思います。

もしも気になった絵本があれば、ぜひ手にとってみてください。